ティルカヨ(tilcayo)とは?100年以上ぶりに見つかった新種の野生ネコをわかりやすく解説
2026年9月17日、猫好きにとって大きなニュースが飛び込んできました。南米ボリビアの山あいの森にすむ小さな野生ネコが、新種「ティルカヨ」(tilcayo/学名 Leopardus tilcayo)として学術誌『Current Biology』に発表されたのです。現在も独立した種と認められているネコ科動物の新種記載としては1923年以来、100年以上ぶりと報じられています。家猫よりも小さなティルカヨは、どこにすみ、どのように見つかり、何が「新種」の決め手になったのでしょうか。論文と各国の報道をもとに紹介します。
ティルカヨ(tilcayo)とは?基本データ
ティルカヨは、アメリカ大陸にすむ小型ネコのグループオセロット属(Leopardus)の一員で、英語で「タイガーキャット」と呼ばれる仲間に属します。英語では「tilcayo」または「Tilcayo tiger cat」と呼ばれています。
- 学名:Leopardus tilcayo(2026年9月に新種として記載)
- 分類:ネコ科オセロット属(タイガーキャットの仲間)
- すみか:南米ボリビアのアンデス山脈東斜面に広がる雲霧林「ユンガス」
- 大きさ:頭から胴までが約42.5〜50.5cm、尾が約25〜26.5cm
- 体重:約1.3kg(保護施設のオス)や1.5〜2kgと報じられている(確認された個体はまだ少数)
- 保全状況:国際自然保護連合(IUCN)による評価はまだ行われていない
ティルカヨの大きさと見た目の特徴
ティルカヨは細身で、一般的な家猫よりかなり小柄なネコです。論文や報道で伝えられている見た目の特徴は次のとおりです。
- 毛並み:明るい茶色〜ベージュの地で、背中の中央はやや濃く、脚に向かって淡くなる
- 斑紋:こげ茶〜黒の、輪のような大きく不規則な斑紋(ロゼット)。輪が開いた形や半分閉じた形が多い
- 尾:長めで、近縁種の一部に見られるような、尾を一周する太い縞はない
- 顔つき:短く丸い耳と長いヒゲ

ティルカヨはどこにいる?生息地はボリビアの雲霧林
ティルカヨがすむのは、ボリビアのアンデス山脈の東斜面、アマゾン低地へと続く山地に広がる雲霧林「ユンガス」です。霧の生じやすい、湿った山の森です。新種の基準となった標本は、ラパス県ノル・ユンガス郡のアラパタ村付近、標高約1,570mで得られました。
現時点で確認されているのはボリビアだけです。野生での生息数や食べもの、繁殖のしかたといった基本的なことはまだほとんどわかっておらず、現地ではカメラトラップを使った調査が進められています。

ティルカヨ発見のきっかけは「家猫」だと思われた1匹
発見のきっかけは、ボリビアの野生動物保護施設「センダ・ベルデ」にやってきた1匹でした。地元の男性が森の近くで見つけた子猫を家猫だと思い込み、麺や米、卵を与えて1年ほど育てたのち、施設に託したのです。
この個体を調べたのが、ボリビアで野生ネコの研究と保全に取り組む生物学者のパオラ・ノガレス=アスカルンス氏です。当初は既知のタイガーキャットだと考えていましたが、2019年、ほかの地域のタイガーキャットの写真と見比べていたところ、斑紋の大きさや形が違うことに気づきます。この気づきが、のちの遺伝子研究につながりました。この個体はいまも施設で暮らしており、2026年時点で10歳ほどのオスだと伝えられています。
なぜ新種とわかった?決め手はゲノム解析
タイガーキャットの仲間は、見た目がそっくりで外見だけでは見分けにくい「隠蔽種(いんぺいしゅ)」として知られています。かつては1種とされ、2013年の遺伝子研究で2種に分けられたほどです。
そこでベルギーのアントワープ大学、ブラジルのリオグランデ・ド・スル・カトリック大学などの研究チームは、オセロット属のネコ38個体の全ゲノム(遺伝情報の全体)を解析しました。このうち26個体がタイガーキャットの仲間で、8点は博物館に保管されていた古い標本から読み取ったものです。
その結果、タイガーキャットの仲間は5つの別々の種から成ることが判明。ティルカヨはそのひとつで、近縁の系統から約140万年前に枝分かれしたと推定されています。あわせて、ペルーのユンガスにすむ集団も新しい亜種(L. tigrinus antisuyo)として記載されました。
ティルカヨという名前の由来
「ティルカヨ」は研究者が考えた名前ではありません。ユンガス地方の人びとが昔からこのネコを呼んできた地元の呼び名を、そのまま学名に採用したものです。
ただ、言葉の由来は地元でもわかっていないそうです。ノガレス=アスカルンス氏が理由をたずねると、「祖父がティルカヨと呼んでいたから」という答えが返ってきたといいます。スペイン語やケチュア語の特定の意味との結びつきも確認されていないと報じられています。
ティルカヨはペットとして飼える?
ティルカヨはペットとして求めるべきではない野生動物です。最初の1匹が家猫と間違えられて育てられていたように、見た目は家猫に似ていても、家庭での飼育を前提とした動物ではありません。これまでティルカヨを含んでいたタイガーキャット(L. tigrinus)はワシントン条約の附属書Iに掲載され、国際的な商取引が原則として禁止されています。IUCNのレッドリストでも、タイガーキャットは絶滅の危険が増している「危急種(VU)」とされています。
ティルカヨ自体は、まだIUCNの正式な評価を受けていません。研究チームの一人でリオグランデ・ド・スル・カトリック大学のエドゥアルド・エイジリク氏は、「1種だと思っていたものが実は5種なら、それぞれを別々に評価しなければならない」と指摘しています。これまでまとめて評価されてきた集団を種ごとに分けると、それぞれの分布域や個体数にもとづいて、保全状況を評価し直す必要が出てきます。
ティルカヨと家猫の関係は?ヒョウ柄の猫種とのちがい
ティルカヨは家猫と同じネコ科ですが、系統はかなり離れています。家猫の祖先はアフリカや中東にすむリビアヤマネコで、ネコ属(Felis)の仲間。一方のティルカヨは、アメリカ大陸で独自に進化してきたオセロット属です。家猫が人と暮らすようになった歴史は猫と人間の絆の科学で紹介しています。
ヒョウ柄の家猫といえば、ベンガルやオシキャット、エジプシャンマウが思い浮かびます。ベンガルはアジアのベンガルヤマネコと家猫の交配から生まれた猫種、オシキャットは野生のオセロットに似た見た目から名づけられた家猫どうしの交配による猫種、エジプシャンマウは自然に斑点模様をもつ家猫の品種です。いずれもティルカヨを交配に用いて作られた猫種ではありません。
イリオモテヤマネコは新種じゃないの?
日本では、1965年に西表島で発見されたイリオモテヤマネコを思い浮かべる人も多いでしょう。イリオモテヤマネコは1967年の論文で新属新種として発表されましたが、その後のDNA研究などにより、現在はベンガルヤマネコの亜種とする考え方が主流です。ティルカヨが「100年以上ぶりの新種」と報じられているのは、現在も独立した種と認められているネコ科動物の新種記載として数えた場合のことで、既存の種の見直しや亜種の格上げとは区別されています。
ティルカヨのニュースから、私たちにできること
- 野生ネコを「珍しいペット」として求めない:かわいさへの需要は、密猟や違法取引を生む原因になります。
- 野生ネコの暮らす環境に関心を持つ:研究者は、タイガーキャットの仲間の生息地が急速に失われつつあることを指摘しています。
- 家の猫の「野生」を楽しむ:家猫にも狩りの本能はしっかり残っています。室内飼いで狩猟本能を満たす方法で、遊びの中に取り入れてみましょう。
ティルカヨの長いヒゲのように、ネコ科の体には共通の工夫がたくさんあります。猫のヒゲの6つの機能を知ると、身近な猫の見え方も少し変わるはずです。野生ネコには会えなくても、猫カフェで出会う猫たちの中に、遠い親戚から受け継いだ「野生のなごり」を探してみてはいかがでしょうか。
参考文献
- Lescroart, J. et al. (2026). Phylogenomics and museomics reveal five distinct species of tiger cats in South America. Current Biology. doi:10.1016/j.cub.2026.08.059
- National Geographic「Meet the First New Cat Species Discovered in 100 Years」
- NBC News「New wild cat species is identified for first time in 100 years, researchers say」
- Sci.News「New Species of Tiger Cat Identified in Bolivia」
- Discover Wildlife「New species of wild cat discovered in Bolivia's cloud forest」
- 公益財団法人 トラ・ゾウ保護基金「イリオモテヤマネコとその保全」
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